◆心理カウンセラー/日本メンタルヘルス協会 代表 衛藤信之
うちのカウンセリング・ルームには、不登校や離婚など、様々な問題で心を悩ます人たちが相談にやってきます。
たとえばリストラ。「職を失って収入が無くなる。俺の人生真っ暗」とか「僕は価値のない人間なんだ」と考えると、
どんどん気持ちが落ち込んでいきます。
でも、「これを機に、本当に自分に合った仕事を探してみよう」とか「夢だった海外生活をやってみよう」とか、
そんな考え方だってできますよね。
営業マンもそうです。たとえば業績の上がらない営業マンは、お客さんから断られると「やっぱり不景気だからな」
「やっぱり俺はダメだ」などと思いがちです。
しかし業績のいい営業マンは捉え方が違います。「30軒飛び込めば1軒は必ず契約できる」と統計学的に考え、
「だんだん成約に近付いている」と考えるのです。
だからお客さんに断られても落ち込まず、「あと28軒断られたら1軒契約だ」と思えます。そうやって「27軒、
26軒…」とカウントダウンしながら楽しんで回るので業績が上がるのです。
では、業績の上がらない営業マンが、業績が上がる発想をできるようにするためにはどうしたらいいのでしょう?
答えは「業績が上がっている人のそばにいる」です。そういう人はだいたい元気で明るいですから、そばにいると
自分もだんだんその気になれるのです。
「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、乗っている人のところには乗っている人が集まります。
昔、手塚治虫や赤塚不二夫、藤子不二雄、石ノ森章太郎など、そうそうたるメンバーが一時期に集った「トキワ荘」と
いうアパートがありました。そのアパートから、時代のアニメ界をけん引する多数の一流漫画家が輩出されていきました。
心理学的に言えば、それは「シンクロニシティ」です。高い志を持った者たちがいると、さらに多くの高い志の者たちが
集まってくるのです。
逆に、後ろ向きな人の近くには同じく後ろ向きな人たちが集まります。同じような考え方をする人といると楽しいからです。
ですから、沈んだ気持ちを上げていきたいと思う人はカーネギーやマーフィーなど成功哲学の本を読むといいです。
「うまくいかない時こそチャンス」「最悪の後はもう上がるしかない」など、現状を改善する考え方のヒントがたくさん
得られます。
今「成功セミナー」が流行っています。「お金を持たないと幸せになれない」と思っている人が多いのかもしれません。
でもたとえば、「お金があると幸せ」と考える人は、「お金がなくなったらどうしよう」と不安になります。
「あの人と結婚したい」と思って結婚し、幸せになった。すると今度は「あなた絶対裏切らないでよ」と不安になる。
子どもができたら今度は「子どもが病気になったらどうしよう」「学校の行き帰りは大丈夫かな」と不安になる。
お金を持ったら持ったで「お金を失ったら…」、成功したら成功したで「この地位から落ちたら…」と不安になるわけです。
実は、幸せと不幸せは「双子の兄弟」なのです。
本当に強い人というのは、どんな状況でも幸せを感じられる人です。現在や過去がどうであれ、「未来は自分でつくる」と
いう気持ちを持てる人、それこそが本当に強い人なのだと私は思います。
『ホームレス中学生』(ワニブックス)という大ヒットした本があります。お笑いコンビ「麒麟(きりん)」の田村裕(たむら・ひろし)
さんが書いた自伝ですが、あの兄弟は小さい頃、なかなかご飯が食べられなかったんですね。
だから一度ご飯を口に含んだら、咀嚼(そしゃく)して咀嚼して咀嚼して…。そのうちご飯が水みたいになって全然味がなくなる。
でもまだ飲み込まな
さらに20分くらい咀嚼し続けると、その時に「味の向こう側」が現れると書いてありました。恐ろしいほど急に甘みが増し、
ものすごくおいしくなる瞬間があるのだそうです。
僕は長年生きてきて、もちろんたくさんご飯を食べてきました。でもまだその「味の向こう側」を味わったことがありません。
そして考えました。
「僕らは『今日の向こう側』をどれだけ味わってきただろう」と。
「子どもが言うことを聞かない」とご相談に来られたお母さんがいました。そのお母さんに「お子さんに値段をつけるとしたら?」
と聞くと「10億円」と答えられました。
僕は言いました。「それならお母さんはもう10億円持ってるってことでしょ。だったらそれを楽しみましょうよ」って。
皆さんがもし「明日死ぬ」と言われたら、助かるためにいくら払いますか? 1億ですか、2億ですか? 健康な皆さんは、
もう今そのお金を手にしているのです。僕らはその価値をどれだけ味わっているでしょうか?
それが僕が考える「今日の向こう側」です。
たとえば江戸時代から現代にタイムスリップして来た人がいたら、その人はとてもビックリすることでしょう。
「えーっ? 現代ってご飯を1日3食食べられるの? 誰と結婚してもいいし、仕事も自由? 日本はすごい国になったんですね」
と、泣いて喜ぶことでしょう。
でも、そこまで喜びながら現代を生きている人ってどれだけいるでしょう。僕らはあまりにも「欠けているところ」ばかりを
深く見すぎているのではないでしょうか。
(みやざき中央新聞より)